2009年4月、「ニュー・ブレイン」公演期間中に熱に浮かされるような気分で書いたあらすじです。

その後読み返したことはほとんどなかったのですが、「TENTH」でダイジェスト版が上演されるにあたり、初演をご覧になっていな い方の参考に少しはなるかも、と思って引っ張り出してきました。

「あらすじ」と言っても無駄に長い上に個人的思い入れが混ざった文章なので伝わりにくいかと思いますが、今の段階で手を入れ直すことはやめました。

 

『 』で括ってあるのは歌の題名です。 歌でつづられるミュージカルのため、セリフや文章の一部はなんとなく覚えている歌詞を元に繋いでいます。

これを書いている時点で持っていたプログラムには歌詞が載っていなかったので、記憶違いもあると思います。(公演の後半、舞台写真が入ったプログラムも販売され、そちらには歌詞が載っている歌もたくさんあった、と気づいたのは千穐楽後…⇒東宝さんに泣きついて在庫を売っていただきました。)

 

(以上、2018年1月9日追記)

ミュージカル「ニュー・ブレイン」

 

幕のない舞台の真ん中にグランドピアノが一台。 天井には円形のカーテンレールが大小二重になっていて、白い紗のような半透明に透けるカーテンがかかっている。そのカーテンレールよりさらに一回り小さい照明つきの円形のリング。最初の舞台装置はこれだけ! シンプル!

 

舞台下手からゴードン登場。ピアノの前に座るとコミカルな前奏の後「ケーロケロ♪」とカエルの歌を歌い始める。『バネの歌』

どうやら作曲しているところらしい。ところがまったく気に入らない様子。すぐに「作りたくない!カエルの歌なんか」と嘆く。 

そこでお昼になったことに気付き、ローダとのランチの約束を思い出して家を飛び出す。(舞台を右回りに大きくぐるっとまわる感じ。)反対側からホームレスの女が(場面転換用のカーテンを引きながら)やってくる。すれ違いざまに「小銭余ってない?」と聞かれるがゴードンは「ないよ」と言って立ち去る。

 

舞台下手にローダがカフェのイスとテーブルを引っ張って登場。このとき舞台の中心は白いカーテンで覆われている。ローダはいわゆる宝塚の「幕前芝居」のような形でスタンバイ。 走ってくるゴードン。遅刻を詫びながら曲ができなくてイライラしていることをローダに訴える。カエルのミスター・バンジーなんて大嫌いだ!と言ったセリフを聞きつけ、カフェのウエイトレスが「ミスター・バンジーの曲を作っている方ですか?私あの番組大好き!」と大興奮。『カラマリ』

どうやらゴードンは嫌っていてもミスター・バンジーはそれなりに人気者らしい。

ローダはとにかく「カエルの歌」と「イエスの歌」を早く仕上げないと仕事がなくなる、とせかすが、ゴードンはこんな曲ばかり作っているから自分の曲を作る時間がない!と癇癪を起こす。 

そのときカエルの着ぐるみ(?)ミスター・バンジーが現れ、ゴードンを小バカにしながら近づいてくる。ローダには見えていない。ミスター・バンジーの幻覚(?)にバカにされ混乱するゴードン。

「もう才能なんて枯れたんだっ!」と立ち上がり、そのまま倒れる。

 

救急隊登場。『救命救急911』

脳内出血の可能性あり、とゴードンを搬送。 看護士にゴードンの素性を聞かれ、「彼は仕事仲間で、ゲイなの」「でもエイズじゃないはず」と明かす。「ロジャーを呼ばなきゃ!」「セラピーキャンセルしなきゃ」「お母さんに電話しなきゃ」「ロジャーはヨットで旅行中だわっ!」と、パニックになるローダ。

 

カーテンの向こうで救急治療を受けている様子がシルエットで映っているが、そこにゴードンがまるで幽体離脱しているように現れ、歌いだす。『ハート&ミュージック』 

横に牧師が登場し、2人でハモりながらこの話の色々なシーンを(というのはこの時点ではわからないですけど)コラージュのように歌詞を紡ぎ歌う。 ロジャー、母親(ミミ)、ローダ他、ミスター・バンジー以外の全員が舞台上に現れて「ハート&ミュージック」を熱唱。(なんとなく構成がシリーズものの映画っぽいというか・・・ストーリーが少し進んだところでテーマソングが始まった、というような感じ。)

 

ママとローダが医者から説明を受けている。脳溢血か脳腫瘍が疑われていたが、どうやらそれは違うらしい。詳しいことはもう少し落ち着いてから検査する、と。『疑いは脳』

不安を隠せないママだが、病室に入ったとたん明るく超前向きな母親に豹変。「おまえのことはママが守ってあげる。心配ない、なんでもいい方向へ進んでいるのよ」と励ます。『ママにおまかせ』

ゴードンはその楽観的なところが気に食わない。「これは骨折とは違う!なんでもママの思い通りになるわけじゃない!」と八つ当たり。明るく振舞うママ、それを不機嫌に振り払うゴードン。 

そこにまたもやカエルのミスター・バンジーが現れ、ゴードンの母親に対する失礼な態度を諌めながら『礼儀正しく』を歌い、ゴードンを小バカにして消える。 

こういうゴードンの癇癪には馴れているのか、ママもたいして腹を立てることなく「そういえばロジャーはどうしたの?」 そこで2人が声を揃えて「ヨットだ~」 

「僕達ユダヤ人とは違うのさ」(とゴードンが言うところをみると、ロジャーは少なくともユダヤ人ではない)

「連絡がついたらすぐ飛んでくるわよ」とゴードンを慰め、ママは病室を出て行く。病室を出たとたん、心配そうな暗い顔になる・・・。

 

上手からロジャーが現れ、『セイリング』を歌う。どうやらゴードンのロジャーへの想いがそのままこのシーンになっているらしい。(まるで大海原が本当に広がるようなロジャーの歌声!) 歌っているロジャーに寄り添うゴードン。2人は優しく見つめあい、ゴードンはそのまま幸福な夢を見ながら眠りにつく。

 

翌朝、検査が始まる。有能そうだが冷たい感じの看護士ナンシー。黒人でデブでオカマだが心優しい「ナース」のリチャード。  

家族の病歴を聞かれたママは、「全部父親のせいよっ!」と叫ぶ。

『家族の病歴』

ここで車椅子に乗ったゴードンと医者、牧師、看護士、ナース、ローダ、ホームレスの女で「遺伝子は悪いほうが勝つのが科学の真実であり、ゴードンの法則だ」という身もフタもないような『ゴードンの遺伝子の法則』を歌う。

 

ゴードンは競馬に全財産を賭けて負け、家族の夢まで奪った挙句行方不明になった父親のことを思い出す。

カーテンの前でゴードンがそのいきさつ『馬とともに去りぬ』を歌い、カーテンの向こう色とりどりの病院のガウンを着た先ほどの6人が競馬場で狂乱する人々のシーンを幻影のようにスローモーションで演じる。(ここ、どのアングルも面白い!)

 

舞台下手奥からグレーのスーツできめたロジャーが黄色い花束(チューリップ?)を持って登場。 ホームレスの女に小銭をねだられ、まるで金持ちの当然の務めというようなにこやかな顔で1ドル札を差し出すが、「あたしが欲しいのは札じゃない。チェンジ、小銭だよ」と拒否される。

 

病室にようやく『ロジャー登場』! ローダ「今日もスーツできめているわよ」ママ「いつも完璧ね」ゴードンは「ナンパしてたんだろ」とちょっとすねてみせる。

「風がやんで帰れなかった。こんな大変なときにそばにいなくて申し訳ない」と花束を渡すロジャー。ゴードンは「いいさ、知らせを聞いてから出かけたわけじゃないんだから」と、まだ突っかかり気味。「具合はどう?」と言えば「別にたいしたことない、君のかわいい子犬が死に掛けている程度さ」・・・完全に駄々っ子モード。 

ロジャーがローダに状況を聞くと、明日がMRI検査とのこと。ちゃんと検査して、すぐによくなるさ、とロジャーはゴードンを慰めるが、「こんな壊れかけた脳はいらない。欲しいのはNew Brain!」・・・やれやれ、とまわりは呆れ顔。

これはきちっと宥めないとまずそうだな、とロジャーがママに看病の交代を申し入れると、気を利かせたママはローダと2人で病室を出て行く。

ようやく2人きりになったゴードンとロジャー。

 

ゴードンいきなりロジャーに「出て行ってくれ」と叫ぶ。自分ひとりで歩けないような俺を支える必要はない、甘やかすな、そうやって優しくして俺を泣かせるつもりなら殺してやる、と。ママたちの手前我慢していた(してたか?)病気への不安も一気に噴出し、ゴードンはややヒステリー状態。ロジャーはあくまで寛大に『何も言わずに』を歌う。「君の言うことは大げさすぎる。聞いていると気が気じゃない。いつものように僕が抱いて暖めてあげよう」とベッドに入りゴードンを包み込む。ゴードンは相変わらず「出て行け」と言いながらもしっかりとロジャーの腕を自分の肩にまわして身を寄せる。「ずっとそばにいよう。おまえに殺されたいのさ」と優しく歌い、ようやく落ち着いたゴードンとしっかり抱き合うロジャー。(最近はここで「よーしよしよし」とまるで犬をあやすみたいにロジャーがゴードンの頭をワシワシと撫でます)

 

ナースのリチャード登場。「ぼーやたち、ここは病院よっ」と2人の邪魔をする。ロジャーは足まで絡ませてゴードンとしっかり抱き合うが、リチャードにド突かれベッドから追い出されて上手に退場。(ド突かれた肩をさすりながら)

リチャードはタオルでゴードンの身体を拭きながら、成功した音楽家で勝ち組のあんたと違って、自分は貧乏で負け組だ、と『貧乏デブ負け組』を歌う。 ゴードンは俺は勝ち組なんかじゃない・・・とちょっと弱気になってつぶやいていると、カエルのミスター・バンジーがまた現れて「おまえには才能も運もない金もない三重苦!」とからかわれる。 

「うるさーい!」と叫んで目覚めるいやーな感じの朝。 今日はMRI検査。

 

部屋の真ん中に立つゴードン。上から照明付きのリングが降りてきて上下する。(面白い演出!)

リラックスしてという医者の言葉に、ロジャーが「ヨットを思い浮かべればいい。ここは大西洋に浮かぶ島、カティーハンクだ」とささやく。 上下するリングの周りに並ぶ皆がリラックスを促すように『カティーハンクの風』を歌う。しかしゴードンはカティーハンクでのバカンスを一生懸命想像しようとするが、どうやら「何もしないでいること」にリラックスできない性格らしい。 (今までもバカンスを楽しむロジャーと楽しめないゴードンで何度かケンカになっているんじゃないかな、と思えるような・・・)

 

MRI検査終了。

ゴードン、ママ、ロジャー、ローダは舞台中央奥やや上手寄り。医者は舞台前方下手寄り。MRI検査の結果は脳動静脈奇形症と判明。このままでは脳動脈破裂の可能性あり。ゴードン驚いて車椅子で医者に近寄る。開頭手術をして患部の摘出が必要だが、運が悪ければ植物状態または死亡もあり得ると言われる。『開頭手術』

ママ、ロジャー、ローダも大きなショックを受ける。驚き方は三者三様で、ロジャーの顔色も変わる。

ゴードンは事態をゆっくり把握する時間も与えられないまま手術の同意書にサインを求められる。病院の牧師は「医者も人間だから間違いはあるだろう。保証はできないが、しかしここはイエスと言うしかない。他に道はない。」と説得。時間通りに勤務を終えたい医者は「今夜は息子とライオンキングを見に行くんですよ」とプレッシャーをかける。(完全にこのキャスト向けのサービスジョークですね。)

ゴードンは仕方なく同意書にサインする。サインが取れた医者は満足そうにニンマリ。手術は明日、と告げると下手に退場。

まずローダがゴードンに駆け寄り、「よかったじゃない!手術をすれば治るんだから、手術すればすぐよくなるわよ」と苦しい励まし。 ゴードンは「明日はベッドに縛られて開頭手術なのに、よかったなんて今はとても思えない。」と取り乱しかける。

 

ロジャーが「どうだろう、今夜はずっと一緒に過ごさないか」と提案する。

『腕の中でおやすみ』(An Invitation To Sleep In My Arms)

(これ、英語の原題が素敵です。こういうご招待を受けたい・・・)

 

♪どうだろう 今夜は一緒に

抱きしめあう腕の中でおやすみ

二人歌いダンスしよう(ここでロジャーくるっと回転)

抱き合って 感じあって 眠ろう

何も言わず 過ごすのもいいだろう

読みたかった本を読む 一緒に

今夜なら出来る・・・♪

しっかりと抱き合う二人。

 

そこに携帯電話のベルが響き、ローダ上手に移動しながら電話に出る。何やら返答に困っている様子。ゴードンとロジャーは不審そうにその様子を眺める。

「冗談じゃない・・・ミスター・バンジー!曲の催促の電話。イエスの歌を明日10時のリハーサルまでにと言っている」とローダが伝える。

ゴードン「放っておけ!」と吐き捨てるように言うが、ローダから更に「息子のミスター・ミュージックが曲を書いたから間に合わなければそれでも構わないって・・・」と言われ動揺する。

「でもそうね、今夜はロジャーと過ごすのよね。でももし気が向いたら・・・いいえ、わからない!どうすればいいのかわからない!」とローダもパニックに。

ゴードンが「わかった。曲を書くよ」と答える。

驚くロジャー。 「それが仕事なんだ」とゴードン。

ここから感動的なデュエット!

ロジャーの歌詞はほぼそのまま。ただしさっきの優しい語調と全く違ってくる。

なぜだ、なぜなんだという感情がかぶさるように激しく歌う。

ゴードンは 2人で過ごす機会はまたある。だけどまだ自分は何も生み出していない。俺たち2人で感じた思いのシンフォニーも書いていない、と訴える。

(このシーン、どうしてもロジャーにロックオンしてしまっていて、ゴードンの歌詞があまり聞き取れません。ハーモニーのバランスはいいので、単に私の耳の贔屓の問題です)

 

ロジャーの感情が激してくる。ほとんど泣きそう。(ここ、本当に激しいんですよ!)

「決めるのは俺だろう?!」とゴードン。その一言で我に返って言葉を飲み込むロジャー。緊迫!

ここでずっと舞台奥で背を向けていたママが「ママは無視なのね」と言い出し、全員がハッとなる。

ママは「何を怒っているの?ママは今夜はあなたの部屋の掃除をするわ、あなたは愛する人と寝なさい。絶対よ。また明日。」と優しく言って、ローダに付き添われ上手に退場。

ゴードン、改めてロジャーに向かい「やっぱり曲を書くよ。今夜はもしかしたら最後の夜。残したいLast Song。わかってくれるね。代わりにキスを。 Good Night・・・」と静かに頼む。

ロジャーはゴードンを見つめながら、高ぶる感情を抑えようとしてワナワナと口元が震える。(ときにはここで涙がこぼれるのです・・・)そしてゴードンの頬を両手で挟むとしっかりとキスをする。そのまま額をつけて見つめ合った後、ロジャーは背筋をすっと伸ばして上手に退場。

その後姿を見つめて思わず追いかけそうになる自分を抑え、悲しみにくれるゴードン。

 

客席下手寄りの通路を後ろからホームレスの女が小銭をねだりながらやってくる。観客に「チェンジ、わかる?お釣りだよ。あたしが欲しいのはチェンジさ!」絡みつつ舞台へ。

『チェンジ』

すっかりオバマ大統領の演説でお馴染みになった「Change」がキーワード。愛してくれなんて言っていない、挨拶もいらない、ただ欲しいのはチェンジ!となかなか深い含みのある歌を歌う。最後はものすごい声量を披露して上手に退場。

 

舞台下手後方でゴードンが小さなキーボードを叩きながら曲を作っている。横で見守るリチャード。

『イエスの唄』

Yesと言うかNoと言うか迷ったときは「Yes, I can」と言おう。Yesには未来がある、Yesは魔法の言葉・・・と前向きな歌詞と明るい曲調。(さっき同じような台詞で手術の同意を迫られたことを考えると何だかちょっと不思議というか・・・)

ゴードン、出来栄えに満足し、これでテレビに出る歌が出来た!と喜ぶ。

 

ここから再び夢と現実の境がわからなくなり、舞台上手にミスター・バンジーの撮影現場が現れる。(ミスター・バンジーがカエルの着ぐるみを着ていない状態で現れたのは初めて)ロジャーとママを除く全員が勢ぞろいしている。ゴードンの「Yesの唄」をミスター・バンジーは気に入ったようで、ご機嫌に歌いだす。下手にいたゴードンも車椅子で参加。全員で歌う。ところがなぜか2番になると歌詞が・・・。

「♪お嬢ちゃんおじちゃんといいことして遊ぼう、と言われたらNo!お小遣いあげようと言われてもNo!♪」??

「なんだこの歌はーーー!ふざけるなっ!」ミスター・バンジー激怒!「お前は脳の病気でいかれてるのかもしれないけど、これは仕事なんだよ!」とゴードンに怒りをぶつけ、「この曲は私の息子に書かせる。息子はどこだ?息子はどこだ?」と探しながら客席に降りて後方に退場。(この「息子はどこだ」というフレーズの意味が全くわからないんです。何か宗教的な暗喩でもあるんでしょうかね?)

意気消沈するゴードン。 ひとり夜中の部屋で朝を待つ不安を歌う。『ひとりの部屋で(part1)』 舞台下手でママもひとりで家に向かっている孤独と不安を歌う。 

ママ、携帯電話を取り出しゴードンに電話。「大丈夫、ママが守るわ、任せなさい」といつものフレーズ。

ゴードン「大丈夫なもんか!ママ、もういいから。明日何があっても落ち着いていて」

ママ「何をバカなことを。まだ人生の途中よ、先の長い人生が待っているのよ」

ゴードン「途中なんかじゃない!明日死ぬんだ」と泣く。ママ「また 明日・・・」と電話を切る。 こらえきれずに泣いているゴードン。リチャードが現れ、「何か自分にできることは?」と優しく問いかけ、そのまま車椅子を押して上手に退場。

 

ママは電話を切った後、ゴードンの部屋の掃除を始める。

机に山積になっている本を見ているうちに、「もうこれが二度と読めないのでは」と考えてしまう自分がいやになり、本に八つ当たりを始める。『本のせい』

手当たり次第全ての本を捨ててしまう。

 

病室のゴードン『ひとりの部屋で(part2)』 静かに朝を迎えている。そして手術の時間がきて、ストレッチャーに移され、運ばれて行く。

 

舞台奥から下手をぐるっと回って、コートを羽織ったロジャーが暗い顔をして歩いてくる。

ホームレスの女が「ヘイ、ミスター」と声をかける。ロジャーそのまま行き過ぎようとするが、「気分でも悪いのかい?」と聞かれ、うつろな笑みを浮かべながら札入れから数枚のお札を抜き出して渡す。

ホームレスの女は喜び、「これで靴を買うよ。運のいい日だ。あんたはどうだい?」と聞く。

ロジャー、『ひどい一日』を歌いだす。

手術は長引いて8時間かかった挙句、医者は予想外の事態で意識が戻らないと言った。泣き崩れるママ、わめき散らすローダ、俺はナースを殴りそうになった・・・最低の一日だ、と。

ホームレスが「愛しているんだね。」とやさしく問いかける。ロジャーの顔が歪む。

「なんだい、取り乱して。人生は悪いことばかり起きるもの。思い通りになんかいかないんだよ、それが人生なんだ、生きているってことなんだ」と歌う。(ホームレスの演技、ちょっと変わりました。 最近はここで何か遠い昔を思い出すように涙ぐんでいます)

「こんなはずじゃなかった」こらえきれず涙を落とし顔を背けるロジャー。

「みんな同じさ、思い通りになんかいかないんだよ」と言うホームレスにロジャーは再びお金を渡そうとするが「何の真似だい」「セラピーだもの」「バカだね。ただしゃべってただけだよ。役に立ったならよかった」と下手に去っていこうとする。ロジャーは再び思い出したように「このまま悪化すれば・・・ママはいっそ死んで欲しいと。最低の一日だ・・・」と歌うと、ホームレスが戻ってきて「みんな同じさ。」とロジャーの背中を叩いてなぐさめ、二人で上手に退場。

 

白いカーテンが円形に閉まっていて、渦巻き模様の影が映りぐるぐる回っている。ライトはぴこぴこと色を変えながら点滅し、その真ん中で頭に包帯を巻いたゴードンが不安そうに周りを見回している。

『脳死』(タンゴのリズムで) ♪なぜかわからない脳死。誰もが泣き叫ぶ。脳死?身体は生きている脳死?脳は機能停止?!だったら誰か起こしてくれよ!♪

舞台奥から白いカーテンをさっと開いてタキシード姿のロジャーが登場!無機質な目をしたままゴードンとタンゴを踊り始める。

ここからしばらくは、脳死状態のゴードンの夢の中。意味は考えず、シーンの楽しさを追うしかない。

ロジャーとのタンゴの後は、パペットとなったローダが登場しゴードンの膝に座る。頭に大きなリボン、頬は丸くピンクに塗られ、銀ラメのスパッツにミニスカート。まつ毛は上下ともビシバシに誇張され、眼はどこも見ていない。まさにお人形。

『夢に見るのは』

夢を見るのは何かの象徴。人間だけの特権。夢の中ではどんなことでもできるけど、目が覚めたら何も残っていない、と早口で歌う。

ローダパペットが舞台奥に退場すると、今度はギンギラに飾り立てたリチャードが登場。ナンシー、ドクター、牧師さん、ホームレスも同様。ゴードンを弄びながら『イーティング・アライブ』(Eating Myself Up Alive)を歌い踊る。(これってタコのこと??)リチャード中心の狂乱のショー。最後はタキシード姿のロジャーとローダも舞台上に現われ、ひとしきり客席も沸き、拍手喝采。宝塚で言えば中詰め。() 

 

一転してまた舞台には丸くカーテンがひかれ、その中でゴードンが光に照らされながらピアノを弾く姿が浮かぶ。舞台上手にママが現れ、息子の奏でる音楽が聞こえる、としっとり歌う。『ピアノが響いてる』

 

下手からスケボー(じゃなくってハンドルがついていて片足で漕ぐ・・・なんでしたっけ?)に乗ってカエルのミスター・バンジー登場。(あの着ぐるみの足でよく乗れるなあ、と感心します。)はーい、おたまじゃくしのみんな、元気かなーと客席に呼びかけ、「おや、どこかにミスター・バンジーのお話を聞いていない子がいるぞ?」と後ろを振り返る。

カーテンの中にはピアノの上に横たわるゴードンが浮かび上がる。

『勇気出そう』

「いじけた弱虫は誰だい?ちょっとつまずいたぐらい何だい!新しい明日は何かいいことがあるかも知れないよ、だから勇気を出して 起きて!」と歌い呼びかける。その歌に誘われるようにゴードンが起き上がりカーテンから外に出てくる。

「上手く行かないときは、出直すチャンスなのかもね。修理してペンキ塗り替え出かけよう。さっきの大きなエラーもいつか笑い話になる。最後は笑おうよ!(ホームランを打つ真似)」今までは否定的なことしか言わなかったカエルのミスター・バンジーの明るく背中を押すような歌にゴードンも笑顔になり一緒に歌いだす。

「いじけた弱虫は 誰だい? ちょっと躓いたぐらい なんだい? ただ足元を見つめて 歩き出そう・・・」

カーテンの中ではベッドを囲み、ママ、ロジャー、ローダが「起きて、目を覚まして」と祈っている様子が見える。ゴードンはミスター・バンジーに促されカーテンの中のベッドに戻っていく。

そして「いじけた弱虫は誰だい。ちょっとつまずいたぐらいなんだい」とかすかに歌いながら目覚める。大喜びでゴードンに泣きながらすがりつく3人の姿(ママ、ローダ、最後にロジャー)がカーテン越しに見える。 カーテンの中 暗転。

 

幕前のミスター・バンジーは

「不思議なことがあるもんだ 負けたはずのゲームに勝ったり 決して許せるはずのない人を許せたり 惨めな思いもほら いつか愛にかわるかも 最後は笑おうよ」(すごくいい歌詞なんですが、フレーズが似ているので記憶が混同して・・・創作はいってます)と歌いながら舞台下手に退場。

 

リチャードが「最後のスポンジバスの時間よ」と下手からカーテンを開けながら登場。

ゴードンはベッドに起き上がって横に立っているロジャーの腰にしっかり抱きついて二人いちゃいちゃしている。

ロジャーが「もういいだろう、普通のシャワーで」と抗議すると、リチャードが「まだ2週間よ。ノンノンノン!」ロジャー「イエス、イエス、イエス!」

そしてゴードンとロジャーはリチャードが持っていたタオルを奪い取ると2人でシャワールームに駆け込む。(舞台奥側に寄せられたカーテンの向こう)

リチャードは「あんたたちのせいで私が叱られちゃう!」と歌う。

『リチャード大変!』(歌いながら着替えの2人が見えないようカーテンの位置を調整してます)

でもいいわ、患者がそれで幸せならね、シャンプーは足りている?お湯はたっぷり出ている?と世話を焼く。2人はぱっぱと服を脱ぎ捨て(カーテンの外に洋服が放り出されてくる)やがて2人が水を掛け合うシルエットが浮かび、腰にタオルを巻いたゴードンだけがカーテンの上手側から顔をのぞかせ『セイリング(reprise)』を歌う。

そのゴードンの歌とともにカーテンの奥が明るくなり、ロジャーが光の中でシャワーを浴びるシルエットが浮かび上がる。(細くてきれいなシルエットです。ドキドキします。) 右にはタオルを巻いただけのゴードン、正面にはロジャーの裸体のシルエット。目のやり場に困ります・・・。(と言いつつしっかり見てますが)ゴードンの歌声と光の中でシャワーを浴びるロジャーのシルエットは幸福感に包まれている。 ゴードンがカーテンを引いて歌いながら下手側にまわっていく。舞台上は再びカーテンが円形に釣られた状態に戻る。

 

ホームレスの女が下手からカートに沢山の本を載せてやってくる。

『大バーゲン』

小説、文庫本、マンガ本、写真集、世界の名作、何でもあるよ、1冊全部たったの2ドルだよ!と声を張り上げる。 入手先は企業秘密。本は捨てたらゴミさ、と歌っている。

上手から、ロジャーと腕を組んでツエを持ったゴードンが現れる。初めての外出にはしゃいでいる。雨に気がつきちょっと嫌がるが、ロジャーが「昔だったら引きこもって出てこなかっただろう」と言うと確かにそうだな、と答える。生きているってすばらしい。

そこでホームレスの本屋を見つけ、嬉しそうに本を手に取るゴードン。ところが中身を見てびっくり!「これは俺の本だ!カバーにサインがある」(ロジャーの本もあった)

売りつけようとしていたホームレス、面倒なことになったな、といやな顔をして本を回収しようとするがゴードンは驚いて次から次と本を確かめ「こんなバカな!全部俺の本だ!」と騒ぐ。でもこの本が俺の生きた証しだ。今俺は生きている!と喜び、とにかく本を返して欲しいと頼む。ホームレスは全部1冊2ドルだよ、と譲らない。自分の本に金を出すのか?と怒るゴードン。

ロジャーは「ご機嫌いかが、カウンセラーさん、こんなところで奇遇ですね。お願いがあるんだが」と財布を出そうとするが、ゴードンが「ロジャー、金を払う気か?!」と止める。仕方なくロジャーは財布をしまい、たかが本でもこっちには戦うだけの意味はあるんだよ、とやんわり脅す。

ところがホームレスは怯まない。王子様も、大統領も本を買うなら2ドルだよっ!とロジャーの鼻先に指を突きつけ、上手側に追い詰める。(ロジャー、ホームレスの指の動きにあわせて顔がぴょこぴょこ動いてコミカル)そして今度はゴードンにも「あんたがどんなひどい不幸な目にあったとしても本は12ドル!同一料金さっ!」と突き飛ばし(ロジャーが抱きとめます)入手先は企業秘密だけど、やけになった母親が八つ当たりして捨てたのかもね、と言いながらカートを押して下手に去って行く。 「おい、待てっ!」とゴードンはムキになって追いかけようとするが、足元がヨロヨロ。ロジャーはあわててゴードンを抱きとめ、「どうしたんだ、たかが本じゃないか」 はっと我に返るゴードン。

生まれ変わったつもりでいても、やっぱりそんなに急には変われないな、と笑う。まだいろいろ不満は言うけど、でも自分の中で確かに何かがかわったんだ、と。

『タイム』(二人のデュエット)

ゴードン 「ここから始めよう」

ロジャー 「それがいい。時間がかかっても一緒にふたりでゆっくり歩いていこう。時間をあげよう、好きなことをする時間を。これから一番大切な時間をあげよう。」と歌う。(これってプロポーズ?と思っちゃいました。 えーっと勝手な想像ですが、ロジャーはウォール街の金融系エリート。仕事はバリバリだけどオンオフの切り替えもきっちりしていて、余暇は自分のヨットでセイリングを楽しむ。 ゴードンは売れない音楽家だから経済的に楽なわけじゃないけど、金銭的なところではロジャーに依存していない。意地もあると思うし。でも生死の境をくぐりぬけ、2人は変な意地も遠慮もなく、相手のために何でも差し出したい、ただお互いが必要だから一緒にいよう、という気持ちを確認しあったんだと思いました。)

2人歩み寄り、熱いキスをする。(濃厚に2~3回)

 

全員が出てきて『タイム&ミュージック』 

「大事なのはTime & Music 探そう Heart & Music それが歌になる・・・

生きていくためのハートと音楽!」

ここでまたロジャーとゴードンがキス! (これ、最初の頃は本当にライトなキスだったんですけど、今は短いけど熱い!一番派手に「チュッ!」と音をたててキスしてます・・・)

 

舞台上手から人間のミスター・バンジーが現れ、ゴードンににっこり笑いかけると楽譜を渡す。(やっぱり曲ができなかったのはただの悪夢だったってことでしょうかね?) 

ゴードン、舞台後方のピアノに向かい『春の唄(I feel so much spring)』の弾き語り。全員がそのピアノを囲んでいる。 ロジャー、ひたすら優しい瞳でゴードンを愛しむように見つめる。(この時の眼差しは、ゴードンへの愛がほとばしってます) 

全員ですばらしいハーモニーを響かせながら舞台前方に一列に並ぶ。ゴードンのきれいな高音で「春のう~ぅぅたを~~」と歌は一度終わるが、そこから一人一人が「I feel so much spring」と歌いながらゴードンとハイタッチしたりハグしたり握手して絡みながら再びピアノのほうに集まっていく。ゴードンは最後にママの肩を抱いて2-3歩き出すが、すぐ後ろで待っていたロジャーにバトンタッチされ(ここはまるでバージンロードを父親と歩いてきた花嫁が花婿にエスコート役を引継がれるような感じでした)、2人抱き合いながらピアノに向かって歩く。 ゴードンをイスに座らせ、その前にひざまずくロジャー。どちらからともなく手を取り合い、しっかりと見つめ合う。

そして(舞台奥がぱーっと明るくなる)明るく光る春の空、未来を見つめる全員の後姿が逆光に浮かび上がる。

 

 

<おしまい>

 

PS ちなみにこのミュージカルの一番最初の『バネの唄』の原題は”Flogs Have So Much Spring (The Spring Song)” でした。

一番最後の『春の唄』"I Feel So Much Spring" と掛けているんですね。

この作者のユーモアに思わずニヤリとしてしまいました。

 

 

(2018年1月9日追記その2:一番最初にゴードンが「作りたくない蛙のうたなんか」とやけくそで歌うメロディが、実は最後の『春の唄』の中のフレーズに含まれています。…ということをあらすじを書いた時点では私は気づいていませんでした。)

放映スケジュールは↑Disneyチャンネル公式ページでご確認ください。