『真夜中に起こった出来事』
<公演日程>
東京公演:2025年3月7日(金)~17日(月)
@よみうり大手町ホール
大阪公演:2025年3月22日(土)~23日(日)
@サンケイホールブリーゼ
無事全公演終了しましたので、簡単に観劇のご報告をさせていただきます。
参考情報:公式サイトのあらすじ
1931年のベルリン。アドルフ・ヒトラー率いるナチ党は躍進中でした。そんな中、若きユダヤ人弁護士ハンス・リッテンはある殺人事件の証人として、ヒトラーを約3時間の尋問で窮地に追い込み、反ファシズムの旗手としてその名を轟かせます。
しかし2年後、ヒトラー内閣が成立。 権力を握ったナチスはある夜、ハンスを「保護拘留」の名のもと、強制収容所に投獄します。ヒトラーは2年前の証言台での屈辱を忘れてはいませんでした。
そしてハンスの母親・イルムガルトは彼の逮捕を知った瞬間から、息子の釈放のため、すぐに行動に移します。ハンスは拷問され、侮辱されても決して屈しません。そしてイルムガルトもナチスの強大な力から息子を救うため、不屈の精神と情熱をもってヒトラーに立ち向かうのでした。
登場人物紹介をネタバレありの情報を付け加えて更新します。
イルムガルト・リッテン/高橋惠子
ハンスの母。ドイツ人。彼女の自由と芸術を愛する気質はハンスにも引き継がれている。ハンス解放のため、夫と暮していた家を離れアパートやホテル住まいをしながら単身でゲシュタポ本部に通い戦い続ける。5年後ダッハウの収容所でハンスと面会を果たしたときは、ナチスが求める情報を与えてでも生きて欲しいと願ったが、彼が思想の自由を求める気持ちを変えることはできなかった。
ハンスの死後、イギリスに脱出。
フリッツ・リッテン/西岡德馬
イルムガルトの夫でハンスの父親。ユダヤ人で法学者。キリスト教に改宗し、大学の学長まで上り詰めている。保守的で愛国主義者。ハンスとはあまり反りが合わず、彼がヒトラーを証人喚問することにも反対していた。ハンスの逮捕により大学を追われ、イルムガルトとはまた違う形で息子の為にロビー活動などを続けていた。
ハンス・リッテン/戸塚祥太
若き革新的な弁護士。反ファシズム主義者を弁護し、突撃隊を起訴した際にヒトラーを証人喚問(1931)したことで名を馳せる。ヒトラーが政権を握った直後の1933年2月、ドイツ国会議事堂放火事件の夜、反政府主義者として「保護」の名のもとに逮捕され、様々な虐待を受ける。片目失明、身体損傷もひどい状態で収容所を転々とし、最後にダッハウへ。 ユダヤ教徒であること、かつ父親がユダヤ人のためニュルンベルク法により「ユダヤ人」と分類される。 この頃にはナチスは国家を上げてユダヤ人迫害を始めていたのでハンス釈放の可能性は絶望的だったが、それでも彼は過去の依頼人(反ファシズム主義者)の名前をナチスに漏らすことなく、母との面会を果たしたのち、1938年2月に自殺。
カール・フォン・オシエツキー/モロ師岡
ドイツ人。反戦運動家で左翼系雑誌「世界展望」の編集者。ドイツ国会議事堂放火事件の夜に逮捕される。収容所でハンス、エーリッヒと共に虐待される。収容所で拘束されたままノーベル平和賞を受賞。これは世界からのナチズム批判の表れではあるが、これによりナチスドイツはますます頑なになり、ハンスや政治犯の釈放に繋がることはなかった。受賞から2年後に結核で死亡。
エーリッヒ・ミューザム/畠中洋
ユダヤ系ドイツ人の無政府主義者、風刺作者、詩人、劇作家。ドイツ国会議事堂放火事件の夜に逮捕される。収容所で虐待されながらも「インターナショナル」(社会主義・共産主義を代表する歌で、この当時はソ連の国家でもあった曲)を歌い、ヒトラーを強烈に風刺することをやめなかった。1934年4月、看守たちによって虐殺される。
コンラート博士/松井工
イルムガルトがベルリンで会った数人のゲシュタポ官僚の一人。イルムガルトがハンスの行方を追及し釈放を要求するために何度も通ってきた際、表面的には温厚かつ紳士的な態度で対応していた。しかし、ヒトラーがハンスによって証人喚問された裁判を傍聴していたコンラートは、ヒトラーへの侮辱を忘れずハンスを憎んでいる。イルムガルトがダッハウの収容所でハンスに面会できるよう許可を出した際、過去の依頼者の名前を教えるように説得するよう要求する。
クリフォード・アレン卿/生津徹
イギリス人政治家。反戦活動で自身もイギリスで投獄されたことがある。ドイツとイギリスの共同連盟のために働き、多くの政治囚人に感心を寄せていた。 彼はドイツでヒトラーと会談の後、フリッツ、イルムガルトとも会合を持つ。イルムガルトは彼の働きかけによってイギリスや世界がドイツの独裁政治へ批判の目を向けることを期待したが、アレン卿はヒトラーが第一次世界戦敗戦後の大不況からドイツを立て直した側面も評価するべきと考えており、またイギリスもこれ以上の関与は内政干渉になると判断している以上、政治家としての立場からハンスのために動くことはできなかった。
グスタフ・ハメルマン/小日向春平
共産主義の政治囚人、芸術家。強制収容所でハンスと友人になる。 収容所内の図書の整理係として働く。 看守の目を盗みながらハンスと書物や芸術の話を楽しんでいた。
舞台は母イルムガルトがハンスのために起こした行動を自らの言葉で語る形で進んでいきます。
舞台後方でゲシュタポの本部でハンスの拘束は不当であるとイルムガルトが訴えているシーン、舞台前方で収容所の様子が同時進行することもありました。
ナチス政権のファシズムに反抗する態度を取り続けるハンス、オシエツキー、エーリッヒ・ミューザムが次々拷問される姿に観客のメンタルも削られます。 しかも彼らは看守の暴行が誰かに集中するとすかさず彼らなりのユーモアを織り込みながら挑発的な態度を取り自らに注目を集めようとするのです。
自分がこの後どうなるのか、果たして生きて収容所を出られる日が来るのかまったくわからない極限状態の中で、なぜこんな不屈の精神を持ち続けられるのか。 エーリッヒ・ミューザムは「インターナショナル」をハミングしながら殺されました。
公式のあらすじを読んだ時に、「母親の活動のおかげでハンスは無事釈放されてよかった!」…という話ではないんだろうとは思っていましたが、実話がベースなだけに想像以上に重く、悲しいラスト。しかもこれはまだナチスによる大虐殺の時代の途中に過ぎないという事実に愕然としました。
ヒトラーという存在はもちろん「悪」ですが、彼一人がすべてを変えたわけではありません。第一次世界大戦敗戦による不況と混乱の中、彼の極端な思想に感化され熱狂し狂気の道に突き進んでいった多くの人がいたから、あの残酷な時代があったわけです。
ラストの直前に、ハンスが証人台に立つヒトラーを追い詰める1931年の裁判のシーンが再現されます。(ヒトラーは声のみ)
そのハンスの様子は、収容所で痛めつけられながらも思想の自由を信じ続けた若者の印象とはまた違って、ある種の危うい「熱狂」がありました。彼は彼の正義のために正しく戦っているけれど、それはヒトラーも同じこと。誰もが何かのきっかけや時代の巡り合わせで「ヒトラー」になりうるのかも?という嫌な想像を掻き立てられてしまいました。
決して過去の物語として終わらせない脚本と、その脚本を舞台に立ちあげて観客の心に大きな爪痕を残した素晴らしいキャストの皆様、「ありがとうございました。お疲れ様でした!」
畠中さんからお写真をいただきました!お疲れのところありがとうございました。
左から 生津さん、小日向さん、モロさん、高橋さん、西岡さん、戸塚さん、松井さん、畠中さん