ミュージカル『鉄鼠の檻』のレポート

 

 

 

『鉄鼠の檻』は629日を以て東京・大阪全19公演を無事完走しました。

 

 

 

(←こちらは東京公演千穐楽の写真です)

全公演終了後だから触れられる点も含めて簡単にご報告をと思いながら、簡単にはまとまらず、2週間もたってからのUPで申し訳ありません。

この話、どこまで書いたらいいのか本当に困りました。

 

初日後のご報告には公式サイトのあらすじのみ転載させていただきましたが、今回はそれに追記の形で結末ネタバレありありの、あくまでも「仁秀を説明するための」あらすじ補足文兼感想のようなものを以下に書かせていただきます。(茶色部分は発起人の感想です。)

 

並行して進む事件などは省略した部分も多くなっております事ご了承ください。

↑これは大阪公演の会場の鉄鼠くんです。

 

あらすじ再掲(公式サイトからの転載)

昭和28年初春。古物商の今川雅澄は、明慧寺の僧侶、小坂了稔から依頼を受け、箱根山中の仙石楼に投宿する。逗留していた医師、久遠寺嘉親と碁を打つ日々を送りつつ、了稔からの続報を待つ今川。

しかし、そんな彼の前に突如現れたのは、雪の中で座禅を組んだまま死んでいる了稔の遺体であった。周りに足跡はなく、不可解な現場に旅館は騒然となる。

一方、時を同じくして箱根を訪れていた憑物落としの古本屋、京極堂こと中禅寺秋彦と、その友人で作家の関口巽も事件に巻き込まれてしまう。更に、県警の捜査に業を煮やした久遠寺が、探偵の榎木津礼二郎を呼んでしまったことにより、榎木津も事件に関わることに。

 

やがて一行は、僧侶が次々と殺される箱根山連続僧侶殺害事件に飛び込んでいくこととなるのだった――。

 

以下、追記

 

最初の被害者は、座禅を組んだ状態で撲殺され、なぜかわざわざ柏の木の枝に置かれその後落下したと判明。(だから足跡もなかった)

身元が明慧寺の僧侶であることはわかったものの、警察の捜査は難航。明慧寺という超閉鎖空間ではそこで暮す30数人の僧たちの生活のすべてが修行に直結しており、厳格な規律の元に暮らしている僧たちには世間の常識も警察の論理も通用しない。「捜査には協力するが修行の邪魔はさせない」スタンス。(特に規律に厳格なのは和田慈行)

そんな中で第2の殺人(最長老の大西泰全)が起こる。

この遺体は便所に頭から突っ込まれていた。誰を容疑者と想定しても、彼らの遺体になぜそんな細工をする必要があったのかの説明がつかない。

 

僧たちの間にも疑心暗鬼が広がり、桑田常信は中島祐賢を疑い次は自分の番ではないかと警察に保護を求める。

しかしそれは己の存在意義に迷いが生じている罪悪感が生み出した「妖怪」の姿に怯えているだけ。京極堂の憑き物落としで常信は自分を取り戻し、山を下り新たな境地で修行を続ける決意をする。

 

その頃明慧寺ではさらに第3の殺人(精神を病み幽閉されていた菅野博行。幽閉理由は省略。)が起きていて、中島祐賢が和田慈行を疑い次は自分の番だと乱心していた。

祐賢は侍僧(付き人)の加賀英生に抱いている邪な思いが露見し、厳格な慈行に粛清されると恐れたのだ。

しかし常信に諭されその煩悩を認め、常信と共に山を下りてあらたな修行の道を歩む決意をするが、直後に殺害される。(第4の殺人) 

 

次々と殺された4人の僧侶。

ついに京極堂が明慧寺に乗り込んだ。(そこに至る経緯はまた別の事件も絡んでいてそちらに触れると収集がつかなくなるため割愛)

 

まずは明慧寺に魅入られた発見者の智念和尚の妄執、それを利用し世間から切り離すことで自分の世界を作ろうとした了稔の妄想、そこで傀儡として貫主の座についていた円覚丹の我執を暴き、一つ目の結界を祓い破った。

明慧寺で暮らす僧侶たちは、世間から隔絶され時間の止まったこの結界に捕らえられていただけだった。

しかしそれは連続殺人の犯人が誰であるかの問題とは別次元のこと。

明慧寺に最初から張られていたもう一つの結界、その結界を張った人間こそが犯人だと言う京極堂。

 

そこにひょこひょこと現れる仁秀

「犯人はそこにいる仁秀さんですよ」 

「はいはい、左様にございます」 

一同驚愕!!

 

彼は明慧寺の近所に古くから住む貧しい老人ではなく、明慧寺が和田智念に発見されるずっと前からこの寺を一人で護ってきた真の貫主。中国で廃れたため、日本に伝わった記録が発見されていない「北宗禅」の教えを継いだ最後の者だった。(日本に残っているのは「南宗禅」) 

 

<ポイント>悟る…「大悟する」タイミングの違い

北宗禅とは修行を続けゆっくりと徐々に悟っていく。(漸悟-ぜんご-

南宗禅は修行を続ける中で悟るときは一発で悟る。(頓悟-とんご-

 

仁秀は了稔との最後のやり取りを回想する。 彼から手伝いを頼まれ一緒に山道を歩いている時、昨日大悟したと言う了稔がその場で座禅を組んだ、その迷いのない姿を見て…「殺めた」

 

拙僧が殺めたのだ」

 

この舞台のオープニングシーンは、最初の殺人が行われた直後偶然その山道を通りかかった盲目の按摩が遺体を杖で不審そうに探るところから始まります。

 

その按摩に突然「拙僧が殺めたのだ」と話しかけたのはつまり仁秀!⇒幕開けの歌い出しの歌詞がまさにこれ。 

♪拙僧が殺めたのだ♪という歌い出しが仁秀だった意味がここで回収されます。(と言っても薄暗い中で大勢の僧侶たちのシルエットの中に埋没している仁秀が歌っていると初見で気づける人は少数のはず。…ファンは声でわかりますが。)

この歌声の響きがまず客席を鷲掴み!素晴らしかったです。

 

仁秀は明慧寺で修行する僧侶たちが頓悟した順番に殺害していったのだった。

京極堂は、頓悟というのは一瞬のことであり、悟った後の修業が大切。(「修証一等」、悟りと修行は同じ、という禅の思想。これは北宗禅も南宗禅も変わらない。)

それをわかっているあなたがなぜ彼らを殺したのか、と聞いた。

 

仁秀は、100年経ってもその一瞬が自分には訪れていない、だからこそ一瞬で悟りが訪れた者のことが悔しく妬ましかった、自分がもしその悟りの境地に至ったならその瞬間に死ねれば幸せだと思っていたからだと答えた。

 

誰よりも長い時間、たった一人、教義を守り寺を護り日々修行を積んでいた仁秀。悟りが訪れないのは修行が足りない、徳が足りないと己に向き合う日々だったはずです。

それなのに自分の寺には、修行を続けている中である時一瞬で頓悟する南宗禅の僧侶たちがいる…

オープニングシーンで最後に呟かれた「所詮、漸修で悟入は難しい」北宗禅の「漸悟」では悟りの境地に入ることは難しい)という台詞に、仁秀の思いすべてが込められていたわけです。

いつも穏やかで飄々としていた仁秀が「悔しい」「妬ましい」などという感情を持ち、ましてやそれに動かされ不殺生の戒を破るとは、です。 そんな自分を「浅ましい」と言って激しさと切なさに震える畠中さんの歌声とお芝居が本当にすごかったのです。鳥肌が立ちました。

 

遺体へ色々と細工したのは、哲童だった。(仁秀が拾って育て、今は明慧寺の雲水として修行中)

彼には少し知的障害があり、いつも公安(禅問答のこと)を考えていたため、遺体を公安の回答に合わせた状況にしていただけ。(ここはもう説明しようがないので原作をお読みください…)

 

その哲童に突然、加賀英生(中島祐賢の侍僧)が「お師匠様の敵!」と切りかかる。(完全な誤解!)

 

この時、仁秀の「哲童!」という叫び声と、その後哲童の元に駆け寄る姿は、先ほどまでの仁秀とはまた違って、この舞台では描かれていない「育ての親」としての愛情が表現…ではなく行動になっていて胸を打たれます。

 

仁秀が拾って面倒を見ていた「鈴」が現れもう一波乱(雑過ぎる省略)の騒ぎが起きているときに、今度は完全に錯乱した和田慈行が松明で寺のあちこちに火をつけながら現れる。

一気に燃え広がる炎を見ながら、仁秀が慈行にとびかかり松明の火を叩き消すと、「ただいま大悟致した」と告げ、自分の嗣いできた法はこれで絶える、哲童を正法で導いてくれ、生きる禅を、と常信に哲童を今後を託す。

そして慈行を押さえつけたまま燃えるお堂の中に引きずり込んでいく。 鈴もそれを追って炎の中へ。 

 

慈行が松明を持って乱入してきたとき、仁秀は真っ先に鈴を庇います。

そして寺に燃え広がる炎を見ながら「なんということだ」と言わんばかりにおろおろとするのですが、その後目に強い光が宿り、慈行の暴挙を止めました。 そして鈴に優しく「去ね」と言い残します。この台詞が本当にグッとくるんですよ。(鈴のエピソード割愛しておいてなんですが)

仁秀の「大悟」がどんな境地だったのかはわかりませんが、彼は最後にその瞬間を迎え、鈴の今後を案じ(結局炎の中に飛び込んじゃいましたが)、哲童を託し、自らが嗣いできた北宗禅とともに消えました。 

禅僧としての孤独だけではなく、育てた二人への愛情もそこにありました。

仁秀、本当に終盤にすべてをひっくり返し、かっさらって行きましたよ…。

 

寺は丸2日燃え続け、まるで最初から何もなかったようにそこだけが焼け落ちた。(ただし焼け跡から発見されたのは慈行の遺体のみ。仁秀と鈴の行方はわからないまま。)

関係者たちのその後の選択を関口が淡々と語る。 (おしまい)

 

「鉄鼠の檻」を語るにしても畠中さんの仁秀に偏りまくってフィーチャーしております。

偏りついでに主役たちをばっさりカットして、明慧寺内だけの相関図を作ってみました。

 

 

また、各僧侶の人物紹介のようなものも初日のご報告よりちょっと詳しめに書き直しましたので、よろしければご覧ください。

まだ配信が見られますし、8月にはCSで放映もありますので、その際の参考にしていただければ幸いです。

小坂了稔(こさか りょうねん):直歳(しっすい)=建設担当知事

殺害直後からストーリーが始まるので登場した時にはすでに遺体。

全てを否定するタイプの禅僧で、周囲との軋轢を生みやすい。発見者の和田智稔と親交があり明慧寺を知る。自分の理想の形に閉じた世界にするため(そしてそれを壊すため)自「檻」をつくるべく画策。世間から隔絶されたまま明慧寺が存続するために必要な資金繰りや仕組みを構築。

 

和田慈行(わだ じあん):監院(かんいん)=人事総務担当 兼 知客(しか)=渉外担当

知事の中では一番若いが監院という重要な役職についている。明慧寺を発見した和田智稔の孫。規律を厳格に守ることだけが行動原理となっている。(榎木津に「中身が空っぽ」と言われた)明慧寺の真実を知って錯乱し寺に火を放つ。

 

中島祐賢(なかじま ゆうけん):維那(いの)=風紀委員

4番目に殺害された。

桑田常信と一緒に入山。すでに修行僧として迷いなくその禅風が確立されているように見えていたが、心の中では行者の英生に抱いている欲望を抑え込んでいた。その性癖が慈行に露見したことで錯乱しかけたが、常信の言葉で己の迷いを受け入れ、大悟した。

 

桑田常信(くわた じょうしん):典座(てんぞ)=台所担当 

中島祐賢の修行する姿を尊敬しつつも迷いのなさに嫉妬していた。大学を出てから出家した学究肌でもあるため、世間から隔絶された自分たちの在り方に疑問を持つようになっていた。京極堂の憑き物落としで山を下りる決意をする。

 

和田智稔(わだ ちねん):明慧寺の発見者。京都の禅寺の住職で、仙石楼の依頼で庭造りのため当地を訪れ明慧寺を発見。寺の謎に魅入られ通いつめた。彼の発見により、禅宗の各宗派も寺の保存と調査に動いたが地主との交渉が難航。ようやく30年後に調査のため入山が決まったものの直前に急逝。 

 

円覚丹(まどか かくたん):貫主=明慧寺の組織の中のトップ

実は真言宗の僧侶。途絶えてしまった金剛三密会の教主の孫。真言宗と禅の融合が実現すればそのトップになれると小坂了稔に唆されて入山し、傀儡となる。

 

大西泰全(おおにし たいぜん):2番目に殺害された。

和田智稔の弟子。彼が明慧寺入山直前に急死したため派遣され、そのまま30年近くが経過。寺の最長老。檀家を持たない明慧寺という寺がなぜ存続していられるのか、最初に遺体で発見された了稔がどんな僧だったのか、禅と修行、公安(禅問答)とはどんなものか、というあたりを取材の一行に解説してくれた、明慧寺で一番フレンドリーだった人。 今川との会話をきっかけに大悟した。

 

菅野博行(すがの はくぎょう):3番目に殺害された。 

元久遠寺医院の内科医だったが、ある性癖に悩み12年前に失踪。明慧寺にたどり着き、修行の道に入る。煩悩を断ち切れたかと思った時、鈴の誘惑に負け…土蔵に幽閉され自ら狂おうとしていた。榎木津に罵倒されたがそこで大悟した。

 

<『鉄鼠の檻』ライブ配信中!>

622日(土)13:00公演(全景映像)/18:00公演(スイッチング映像)

623日(日)13:00公演(全景映像)/18:00公演(スイッチング映像)

料金4,000

各公演終了後~715日(月)23:59までアーカイブありです。

 

 

購入は⇒ チケットぴあ https://w.pia.jp/t/tesso-no-ori/ 

<CS衛星劇場 放映予定>

824()19:4522:45 (榎木津役:横田龍儀)

831()19:4522:45 (榎木津役:北村諒)

 

CS衛星劇場(有料チャンネル)視聴方法は こちらご確認ください。

 

⇒ https://www.eigeki.com/page/howto

 

 

こちらは大阪公演にハタ坊の会有志からお贈りしたスタンド花です!

1枚目はお花屋さんからいただいたもので、2枚目は現地で観劇された方がお写真送ってくださいました。 ありがとうございました!

放映スケジュールは↑Disneyチャンネル公式ページでご確認ください。