東京公演千穐楽から1ヶ月も経ってしまった今頃こんなレポートをUPするものちょっと気が引けるのですが…
この作品と畠中さん演じるバディがどんな役でどんな見どころがあったのかを、ファン目線で書きましたので、3月末に予定されている「ディレクターズカット版」の再配信前に目を通していただければ幸いです。
初日レポートともかぶりますが、再度登場人物を紹介します。
ウェス/平間壮一
現代のファッションデザイナー。飛躍を求めNYから生まれ故郷のニューオリンズに戻り、ショップを開くための不動産を購入。過去にタイムスリップし、パトリックと恋に落ちる。
パトリック/小関裕太
謎めいたムードの若い男娼。 ウェスに興味を持ち次第に惹かれていく。
バディ/畠中洋
ピアニストで、妻と子供もいる“クローゼット”のゲイ。アップステアーズラウンジで自分の作曲した曲を弾き語りしている。 ピアニストとしての過去の栄光への未練、妻子をだましている今の生活のストレスもここに来ることで癒している。デールへの態度はメンバーの中でも一番キツイ。
イネズ/JKim
フレディの母親でシングルマザー。フレディの良き理解者で、ラウンジの常連とも仲がいい。唯一の異性愛者。
フレディ/阪本奨悟
昼は建設作業員、夜はラテン系のドラァグクイーン。女装が見つかり父親に捨てられたが、母イネズの協力もあり、ドラァグショーの人気者。
デール/東山義久
孤独なホームレスの男娼で、最近ラウンジに現れた。悪気はなくても乱暴な言動も多く、ラウンジでは異分子でありトラブルメーカーとして認識されている。
ウィリー/岡幸二郎
昔は南部一の歌姫と呼ばれていた(らしい)年齢不詳の元クイーン。面倒見がよく、ラウンジに集まる人々のメンターのような存在。若く美しかったころの自分の昔語りが大好き。
ヘンリ/関谷春子
同性愛者たちのコミュニティ、アップステアーズラウンジのオーナー。本名はヘンリエッタ。レズビアン。 仲間のためにもラウンジを守ることを最優先しているので厳しい態度を取ることもある。
リチャード/大村俊介(SHUN)
同性愛者たちを信者として受け入れるMCC教会の牧師。アップステアーズラウンジで集会や社会奉仕活動への参加を呼び掛けている。
ラリー/大嶺巧
アップステアーズラウンジのバーテン。大きな身体で仕草がいちいち可愛らしい。
警官/大嶺巧
ゲイへの差別意識が強い攻撃的・高圧的な警官。おそらくこれが当時のスタンダード。
不動産業者/大嶺巧
現代のウェスにアップステアーズラウンジの跡地という事故物件を売りつけた調子のいい不動産業者。
<作品の詳しいすじ書き>
(結構詳細に書いてしまったので「あら」すじとは言えなくなっています。長いので途中折りたたんであります。)
プロローグ
倒れたテーブルや椅子、破れたカーテン。廃墟のような空間に置かれたグランドピアノの前に男が座りしっとりと弾き語りを始めると、そこは1973年のニューオリンズにあるアップステアーズラウンジとなり、次々現れる常連たちがピアノを囲んで素晴らしいコーラスを響かせ、暗転。 (M1:此処が きっとパラダイス)
ファッションデザイナーのウェスは、インスタでも多くのフォロワーがいる人気者だが、まだ自分のブランドを確立できていないことに焦りを感じ、なんとか飛躍したいとNYから生まれ故郷のニューオリンズに戻り、ショップを開くための不動産を購入した。ところがそこは「いったい何がおきたらこの場所はこんな風になるんだ」と言いたくなるひどい状態。
気を取り直してウェスはさっそく物件のオーナーになったことをSNSで発信するための動画を撮ろうとハイテンションで話し始めるものの、自分で自分が嘘くさく感じてうまくいかない。(M2:この場所から)
ちょっとドラッグの力を借りてハイになり、目が覚めるとそこは同性愛者が集うバーだった。しかも1973年にタイムスリップしていた。
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すじ書きの部分ではあえてバディについて詳しく触れないようにしたので、ここから先はバディにロックオン!したファン的感想と見どころだったなあ、と思うシーンのご紹介です。
●バディという男
陽気で仲間思いで頼りになる面を見せたかと思えば、お気に入りのパトリックがウェスと親密になっていくのが面白くなくてちょっかい出したり、わざとパトリックの秘密をバラしたり。
クローゼットのゲイとしてうまく世渡りしている余裕を見せようとしながらも、過去の栄光に未練たらたらで大人げなくて器が小さい、いわゆる「こじらせ」おじさんでした。(全力で褒めてます)
こんな一筋縄ではいかない面白い役、しかも歌声もたっぷりの役に畠中さんをキャスティングしてくださった方には足を向けて寝られません。
●見どころその1 / M1の♪此処が きっとパラダイス♪(&M3)
なんと言っても作品のオープニングの1曲目のインパクトはすごかったです。
ピアニストとしての弾き語りなので、いつものミュージカルの歌い方とは違います。台詞を歌に乗せているのではなく、純粋に自分の音楽を心から楽しんで奏で、歌っているバディ。 M3 ♪きっと見つかる♪では即興曲と歌で仲間を紹介しながら、最後は自分の歌声に陶酔するかのようにご機嫌に歌い上げるバディ。
今までの舞台ではちょっと見られなかった(聴けなかった)新しい畠中さんに出会ったようでゾクゾクしました。
●見どころその2 / デールとの対決
全編を通してデールに対する嫌悪感丸出しの徹底的に冷たい態度は強烈でした。
皆と楽しく歌っていても、デールが視界に入ってくると超イライラした声で「デール!どけっ」と冷たく言い放ちます。言うだけじゃなくて小突いて何度も部屋から追い出そうとしていました。
アップステアーズラウンジには社会から差別さる側の同性愛者が集まっているとはいえ、お互いが無条件に助け合い支え合えているわけではありません。差別されているからこそ、そこにもさらに差別が存在している構図はリアルであり、重かったです。
デールが、自分の窮状を知っていながらどうして誰も手を差し伸べてくれないのか、愛してくれないのかとブチ切れたとき、バディが投げつけた鋭い言葉の数々。
「おまえがイカレてるからだよ」「おまえの人生がどん底だってみーんな知ってるんだよ」
バディ!な、なにもそこまで言わなくても…と、息を飲みました。
「おまえがこの店に入ってくると自分たちもおまえと同じなんじゃないかって思わされるのさ!」
あああ、そういうことだったんですねえ。
ホームレスで失うものなど何もない程のどん底にいる男娼デール。彼はバディにとって気の毒な他人などではなく、自分もいつかあそこまで落ちるかもしれない悪夢のようなもの。 もしかしたらすでに大差ない場所にいるのかもしれないと目をそむけたくなる存在。
このコミュニティのメンバーとして認めるなんて論外で、とにかく目の前から消えて欲しかったんだと納得しました。
そしてデールに「自分自身への憎しみを俺のせいにするな」と反撃され、ゲイであることを隠している生活、家族に嘘をつき続けている毎日を揶揄された時のバディの目に最初浮かんだのは怒りではなく「恐怖」だったように見えました。
だからこそ、自分を正当化し、デールを追い出すことがこのコミュニティのためであるかのように暴言を叩きつけ怒り狂うバディは、もはや痛々しかったです。
相手の一番痛いところを正確に的確に傷つけ合う二人。 バディは肉体的に殴られましたけど、デールの心だってずたボロです。 この争いが最後の悲劇を招く引き金になってしまったことが辛いです。(でもこんな畠中さんのお芝居が見られて幸せでした)
●見どころその3 / 慟哭
「バディ あんたは自分の人生を生きているって言えるの」
バディの虚勢も建前もすべてを崩壊させてしまう、あのウィリーの一言。
生きていくために世間に対して自分を偽るだけでも辛いのに、最も自分の身近にいる妻や子供を裏切り続けていることがどれだけバディの心を苛んでいるか、それがわかっているからこその一言だったと思います。そこを抜け出せ、というバディを思っての言葉です。
でもバディは大切な物を取り上げられそうになった子供のようにピアノにしがみつき、「ここに来ることだけが俺の楽しみなんだぁぁぁ」と叫んでいました。 しかしそこでふと冷静になり「申し訳ない。俺もお前たちと一緒にいちゃいけないようだ」と呟きます。すごく空っぽな声でした。
自分の言動は「仲間を守って」いたのではなく自分を守っていただけだし、それをみんなもわかっていることに気づいたんだと思いました。
立ち去らねばと決意した瞬間、ここで過ごしてきた全ての時間と仲間との思い出が身体の中からあふれ出て、それを失おうとしている事実に心が悲鳴を上げ泣き崩れるバディ。まさに慟哭でした。圧倒されました。
泣き崩れるバディと、痛ましさに凍り付く仲間たち。そこからウィリーが静かに歌い始めるM14「絆」が感動的でした。
心が砕けても、血を流しても、前へ、明日へと進んでいこうと全員で歌い継いでいきます。
再びバディをピアノの前に座らせ♪友と生きた日々の思い出は 決して切れない絆だから♪と全員が手を取り合う姿は本当に素晴らしかったです。
この後に訪れる悲劇の前の最後の幸せな記憶でしょう。
コミュニティのメンバーの絆が強く美しいだけに、この場にいられなかったデールの存在が一層哀れに思えました。
●見どころその4 / プロローグ(リピーター限定)
リピーターとして観たときのプロローグのシーンです。
このシーン、ピアノとバディの歌声でみんなの魂が集まってラウンジの「あの日」が始まる、そんなイメージで見ていました。
でもプロローグにはデールもいて、ピアノの上に飛び乗った彼にバディが「おい、デール」と声をかけます。それは「おいおい、ピアノに乗るなよ。しょうがねえなあ、おまえは」みたいなニュアンスの、仲間に対する明るく楽しそうな声でした。 そんな声でデールを呼んだことは現実には1度だってなかったはずです。いつも「デール、そこをどけ」「消えろ」だったんですから。
そうわかってからこのシーンを見ると、切なさ倍増でした。こんな関係で笑いあえていたら、本当に「此処がきっとパラダイス」だったのに。
だからこそ、このプロローグはアップステアーズラウンジで一番幸せな「夢」として再現され、物語が始まったんだなあ、と思いました。
そしてその歌を歌っている畠中さんの歌声のすばらしさ!⇒ 見どころその1に戻る(永遠のループ)
以上、発起人の個人的な思い入れが暑苦しい、畠中さんの見どころレポートでした。
畠中さん、本当にお疲れ様でした。
実際に起こった悲惨な事件を元にしたお話ですが、それでも未来への希望が残るラストでした。 ウェスが最後に言っていたように差別は決して過去のものになっているわけではありません。 自分が差別される側にいなくても、多様性を認められない社会に無自覚であってはいけないと強く考えさせられました。
是非、再演していただきたい作品です。
ディレクターズカット版の再配信も楽しみです!