2021年1月16日(土)15:30開演
ミュージカル「青空の休暇」
ルネこだいら大ホールのプレビュー公演を拝見しました。
すでに1週間以上経過というまったくタイムリーじゃない状況ですが、簡単にご報告いたします。
脚本:中島淳彦 演出:鵜山仁
作詞:佐藤万里 作曲・演奏:吉田さとる
原作:辻仁成「青空の休暇」(幻冬舎刊)
<主な登場人物>
白河周作/畠中 洋
早瀬光男・息子/井上一馬
栗城尚吾/清水明彦(文学座)
ケイト/宮田佳奈
庄吉/田上ひろし(劇団SET)
今村佳代 /藤森裕美
リチャード/グレッグ・デール
浩子/米谷美穂 他
<超ザクっとした概要>
舞台は1991年のハワイ。50年前に真珠湾攻撃で米軍の戦艦を爆撃した「かつての若者」白河(畠中さん)、栗城(清水明彦さん)、早瀬(井上一馬さん)もすでに75歳。
早瀬の突然の提案で、50年前に爆撃した真珠湾を訪れるためにハワイに向かった。
そこで不思議な縁が繋がるように、50年前に3人が爆撃した戦艦の乗組員だったリチャードとその妻浩子、通訳兼ガイドで日系3世のケイト、ケイトの母・佳代、日系人で牧場を経営する庄吉たちと知り合う。
庄吉の牧場には、真珠湾攻撃の日に不時着した戦闘機が隠されていた。
なんとかこれを蘇らせて再び大空へ、という庄吉の願いはやがて全員の夢となり…。
今回はこの公開プレビュー公演以外はすべて演劇鑑賞会主催のため、一般ではチケットが購入できません。舞台を観終わったあと、この事実がずどーん!とのしかかりました。
「もったいない!」畠中さん主演に舞台をこの1回しか見られないとは…!
ということで、あくまでも私の視点から見た「畠中さんの白河」がどんな男だったか、について感じたことをつらつらと書かせていただきます。 ネタバレだらけで、しかもあくまでも白河中心なのであらすじとも前後しております。ご注意ください。(何に?)
まず「75歳」という設定の畠中さん、失礼ながら違和感ありません!いつもより口角を下げ、少しもちゃっとした話し方、やや背中が丸く足元はぎこちなく、動作もゆっくり。 そして怒りっぽい!その怒り方が特に老人っぽかったです。(笑)
3人は同じ「九七式三号艦上攻撃機」に乗って戦い生き残った仲なので、ハワイに到着するとまずは真珠湾に行ってみたいとガイドのケイトに頼みました。
そこで、沈んだ戦艦「アリゾナ」の記念館でボランティアをしていたリチャードと知り合います。50年前は戦争という個人ではどうしようもできない特殊な状況下だったとしても、自分たちの爆撃で片脚を失ったリチャードを目の前にして、3人はどういう態度を取ったらいいのか戸惑っていました。
3人との出会いに動揺し複雑な胸中をのぞかせつつも、穏やかで紳士的なリチャード。 彼はその日の夜、日本人の妻を伴って3人を訪ねてきます。
50年前は敵同士だったはずの自分たちがハワイの地で語り合えていることに、何か不思議な「縁」というだけでは説明のつかない大きな力を感じている4人の表情がとても印象的でした。
白河にはもう一つハワイで不思議な出会いがありました。
今回3人が通訳兼ガイドとして雇った日系3世のケイトは、白河の妻・小枝の若いころにそっくりだったのです。
白河は3年前に小枝が突然自殺したことから立ち直れず、小枝が亡くなったことすら50年来の友人である二人にも伝えていませんでした。 驚いて白河を慰めようとする二人に、そのことには触れてくれるな、という拒絶のオーラ出しまくり。
妻を大切に思っていても、感謝や愛情を素直に口に出すことはできなかった世代です。(この舞台の設定は1991年。今から30年前の75歳ですから)
青春時代は戦争に塗りつぶされ、戦後は必死に働いて日本の復興を支え、家庭を顧みる時間がなかったとしても、彼なりに家族を守ってきたという自負があったと思います。
仕事一筋の人間だった白河は、小枝の心の不調にも気づけなかったのでしょう。 小枝の死に自分の今までの生き方を否定されたようで、価値観ぐらぐらです。(70歳超えてパートナーの自殺なんて、想像するだけでもダメージ大きすぎますよね…)
でもいくら自問自答しても、小枝に問いかけても時間は戻せないし答えが見つかるわけでもなく、ただただどうしようもない喪失感に苛まれていました。
そんな彼は複雑な気持ちで小枝にそっくりなケイトをついじっと見つめてしまいます。
白河が自分を見る目に浮かんでいる悲しみを感じ取ったケイトは、彼を心配しながらも、ハワイ生まれのハワイ育ちらしい率直さでびしびしと自分の意見をぶつけました。
なぜ奥さんにちゃんと愛しているって言わなかったのか、日本の男性はダメね、夫婦は他人だからこそ言葉に出して言わないと理解し合えない…。
他人に言われたら素直に聞けないはずの言葉が、小枝にそっくりなケイトに言われたことで徐々に心に届いたんだと思います。 悲しさから自分を守るために纏ってしまっていた怒りや頑なさを捨て、思わずケイトにすがって泣き崩れる白河の姿は本当に痛々しい半面、一種のカタルシスも感じました。 きっと今までは泣くことすらできなかったんだろうなあ、と。
末期がんであることを隠してハワイに来ていた早瀬が倒れ、日本にいる彼の息子に連絡を取った白河は、父親の危篤にも駆けつける様子のない息子に激怒しました。 おそらく、息子たちとうまくいっていない自分の姿もダブったのでしょう。 必死に生きてきたのに気が付けば世の中は大きく変わり、自分たちの存在が軽んじられているという不満や怒り。
だからこそ余計に「九七式三号艦上攻撃機」をもう一度空へ飛ばす計画に夢中になっていきました。 爆撃していた頃の思い出を美化しているのではなく、「何かに挑んでいた自分」「確かに空を飛んでいた自分」を取り戻したいという情熱が、白河や栗城を若々しくしていきました。 映画なら若いころの映像を使えますが、舞台ではそれはできません。 老けメイクのまま畠中さんのお芝居の力と観客の想像力で若く見えてしまう…ナマの舞台の醍醐味です!
ついに修理が完成した飛行機に乗り込み、「理屈じゃない!俺は自分のために飛ぶんだ!」と宣言した白河の姿に感動です!
年をとると失うものばかりが増えていくかもしれないけど、それでも自分のために挑戦できる自分でいたい、と思わせてくれました。
さすがに今は2021年ですから、白河は天国で小枝さんと再会しているはずですが…その日まではきっとバリバリ元気に過ごしたことでしょう。
このミュージカルはお芝居の比重が大きくて、歌詞もすごく心に沁みました。やはり日本のオリジナルミュージカルっていいな、としみじみ思いました。
畠中さんのお芝居と素敵なソロと感動のコーラス!すべてじっくり堪能できました。
最後のナンバーに
♪信じよう 明日は今日より素晴らしい一日が待っていると
諦めなければ人生は楽しいものさ♪
という歌詞があったのですが、これにかなりぐっと来てしまいました。
誰もが「来年はいい年になりますように」と願っていたはずなのに、2021年になったとたん2度目の緊急事態宣言…。 正直ちょっと弱気になっていたのですが、でもやはり「明日は今日より素晴らしい一日が待っている」と思いたいです。
戦争の傷跡、配偶者の自殺、家族との不和などなど、重いテーマを扱っているのに暗くなりすぎず、最後は明日への勇気をいただきました。
素敵な舞台をありがとうございました。
2月14日までの地方公演も、どうか皆さんお身体にお気をつけて!
(地方公演の日程はこちら)
プレビュー公演を終えた畠中さんの久ぶりのツイートからも、やりがいのある役を楽しんでいらっしゃる様子がうかがえます!
久しぶりの真ん中の役。イッツフォーリーズ「青空の休暇」この状況の中、昨日何とか無事に開幕する事が出来ました。久しぶりに「普通の男」(お爺さんですが)の役を嬉々としてやらせて頂いてます。公演はこれから1ヶ月続きますが、無事に完走できますように!あぁ、舞台に立てている幸せ!最高です! pic.twitter.com/VKL6VZAN4M
— 畠中洋 (@hatabo0109) January 17, 2021